「Apple Car Project(アップルカー プロジェクト)」。
それは、2014年から約10年間、テクノロジー業界最大の秘密とされていました。
これは単なる電気自動車(EV)開発計画ではなく、
iPhoneがスマートフォンを再定義したように、
「移動」そのものを再発明しようとする壮大な試みでした。
ただし、Apple自身は本計画の存在や仕様を正式発表していません。
主要報道に基づけば、2024年2月末に社内通知で中止(撤退)が決定し、
多くの人員が生成AI関連部門などへ異動したと報じられています。
そのことを踏まえたうえで、記事にしてみます。
Apple Car Project(プロジェクト・タイタン)とは?
このプロジェクトの全貌は厚い秘密のベールに包まれていました。
その中からわかる部分をまとめてみます。
いつ・誰が・どこで・何を目指したのか
主要メディアの取材報道によれば、
Appleの自動車プロジェクトは2014年頃、
社内コードネーム「Project Titan(プロジェクト・タイタン)」として始動。
ティム・クックCEO体制のもと、EVの車両開発と自動運転技術の確立を狙いました。
のちに「ステアリングやペダルを持たない完全自動運転(SAEレベル5)」の構想まで
高められた時期もあったとされています。
※用語注
SAEレベル:米国自動車技術会(SAE)が定める自動運転の段階区分(0〜5)。
レベル5は運行設計領域(ODD)の制約なしに、システムが全運転タスクを担う状態。
なぜ立ち上がったのか
2010年代半ばは、EV化とソフトウェア化で自動車産業の大転換が進行していました。
巨大市場のポテンシャル、AI・半導体・OS統合の強み、
そして垂直統合サプライチェーンを持つAppleにとって、
モビリティは「次の収益柱」候補でした。
もっとも、公式なプロダクト戦略として外部に明言されたわけではなく、
動向は一貫して非公開となっていました。
Apple Car Projectの技術と構想
それは「車輪のついたiPhone」ではなく、
「車輪のついた全く新しい体験」という構想だったと言えるでしょう。
中核となる技術要素
報道によると、
Appleは「運転手がいらない完全自動運転(レベル5)」を目指していて、
ハンドルもペダルもない、
乗る人同士が向かい合って座れるような車内デザインを考えていた時期がありました。
また、車を自動で走らせるための高性能なAIチップ(SoC)や、
iPhoneのように車内の機能をまとめて操作できる専用ソフト(車載OS)も開発していたとされています。
実際のテストでは、レクサスのSUVにLiDAR(ライダー)という、
レーザー式センサーなどを取り付けた試験車が、公道で走っているのが確認されています。
※用語注
LiDAR:レーザー光で対象物までの距離を測り、周辺環境を高精度に3D把握するセンサー。
どのように実現しようとしたか
最初のころ、AppleはBMWや日産、ヒョンデ(現代自動車)など、
すでに車を作っているメーカーと組むことを考えていたと報じられています。
しかしながら、どちらが主導権を握るか、Appleのブランドをどう扱うかなどの点で意見が合わず、
大きな進展はなかったようです。
その後の2019年、
Appleは自動運転の新興企業「Drive.ai」を買収し、技術や人材を社内に取り込みました。
そして2022年ごろからは、「完全自動運転」の目標を現実的な方向に修正し、
主に高速道路での自動運転(レベル2+〜レベル4程度)を目指すようになったとされています。
また、発売時期も2026年から2028年ごろへと、少しずつ先延ばしになったと報道されています。
Apple Car Projectの構想(報道ベース)
- 目標レベル: 完全自動運転(レベル5)を志向 → のちにレベル2+〜一部レベル4へ縮小と報道
- 目標価格帯: 10万ドル未満(高級車レンジ)と報道(2024年1月時点)
- 推定開発期間: 約10年(2014年頃〜2024年)
- 推定総投資額: 100億ドル超(年間10億ドル規模の支出が続いたとの報道)
- 中核技術: 自動運転向けカスタムSoC、車載ソフトウェア/OS、センサーフュージョン(LiDAR等)
Apple Car Projectはなぜ未完に終わったのか
最も革新的な企業でさえも、物理法則と市場の壁を超えることはできませんでした。
技術的・経営戦略的な課題
このプロジェクトが途中で終わった一番の理由は、
「完全自動運転(レベル5)」を実現するのが想像以上に難しかったことです。
あらゆる道路状況や天候に対応できるAIやセンサーの仕組みを作るのは、
やはり非常に複雑で、思うように進みませんでした。
リーダーが何度も交代し、方向性も「すべて自動化を目指す」案と
「まずは一部だけ実用化する」案の間で揺れていたとされています。
さらに、開発費が膨らむ中で利益を出す仕組みが見つからなかったこと、
そして会社として生成AIに力を入れる方針へ切り替えたことも重なり、
2024年2月に中止を決めたと報道されています。
巨額の投資と市場の変化
報道によると、開発にかかった費用は合計で100億ドル(約1.5兆円)を超えたとされています。
関わっていた人の数も、最大で数千人規模にのぼったようです。
しかし、プロジェクト中止のあと、
アメリカ・カリフォルニア州の公的な書類(WARN=解雇通知制度)から、
2024年春に少なくとも614人が解雇されたことが確認されています。
その一方で、一部の社員は、
AI開発を担当するジョン・ジャンナンドレア氏の部門などへ異動したと伝えられています。
Apple Car Projectがもし実現していたら
もしあのリンゴのマークを付けた車が走り出していたら、
私たちの「移動」はどう変わっていたのでしょうか。
当時描かれていた未来像
報道によれば、Appleが考えていた車の中は、
まるで「走るリビングルーム」や「移動式オフィス」のような空間になる予定だったとされています。
また、車を売って終わりではなく、
アプリやサービスを使って継続的に収益を得る「サブスクリプション型の仕組み」も想定されていました。
※これらはあくまで取材で明らかになった計画段階の内容であり、
Appleが最終的にこの仕様にすると明確にしたわけではないことには注意。
現代からの展望と残されたもの
プロジェクトが終わったあとも、
開発の中で積み上げられたAIの仕組み(アルゴリズム)やチップ設計(SoC)、
センサーを組み合わせて環境を認識する技術(センサーフュージョン)、
そして人と機械をつなぐ操作の仕組み(HMI)といったノウハウは、Appleの他の製品…
たとえばVision ProやiPhone・MacのAI機能に生かされていく可能性があることは確かでしょう。
Apple Car Projectは、
「車を完全にソフトウェア化する」という夢がまだ遠いことを示しましたが、
その挑戦の跡は、確かにAppleの技術の歴史に残る“未完の章”として受け継がれています。
年表
| 年月 | 出来事 |
|---|---|
| 2014年頃 | 「Project Titan」始動(社内・非公開)。 |
| 2016年 | ボブ・マンズフィールド氏がリードに復帰。 自動運転システム重視への見直しが報じられる。 |
| 2017年4月 | カリフォルニアDMVの自動運転公道試験許可 (レクサスRX450h×3台、ドライバー6名)。 |
| 2018年8月 | テスラ出身のダグ・フィールド氏が復帰しプロジェクトに合流。 |
| 2019年6月 | Drive.aiを買収(自動運転人材・資産を獲得)。 |
| 2022年12月 | 完全自動運転の目標を縮小、発売は2026年へ(報道)。 |
| 2024年1月 | 発売時期が2028年以降へ、レベル2+相当に縮小、 価格は10万ドル未満の方針が報じられる。 |
| 2024年2月27日 | 社内通知で中止決定。多数の人員が生成AI関連へ異動と報じられる。 |
| 2024年4月 | カリフォルニア州のWARN公表により614人のレイオフ(解雇)が判明。 |
用語解説
- プロジェクト・タイタン(Project Titan)
-
Appleの自動車関連取り組みの社内コード名。2014年頃に始動したと報じられる。
- 完全自動運転(レベル5)
-
SAEが定義する最高段階。地理・気象・道路条件などに依存せず、システムが全運転タスクを担う状態。
「自動運転レベル」について
SAE(米国自動車技術会)が定めたレベルについて。
| レベル0 | 運転者が全て自分で。 |
|---|---|
| レベル1 | 【運転支援】 車が運転操作の一部をサポート。 ドライバーが常に周囲を見て、必要に応じて自分で操作する必要があり。 例) ・車線を維持するためのステアリング支援 ・前の車との車間を自動で保つクルーズコントロール、など |
| レベル2 | 【部分自動運転】 車が加速・減速・ハンドル操作の両方を同時に支援。 運転ん責任はレベル1と同じく人間のドライバーにある。 たとえば高速道路で「ハンズオン(手は添える)」のまま、 車が自動的に走行車線を維持し、 前の車に合わせて速度を調整するような仕組みのこと。 テスラの「オートパイロット」や日産の「プロパイロット」などが代表例。 |
| レベル3 | 【条件付き自動運転】 一定の条件下において、車が主体的に運転を行う段階。 たとえば高速道路など特定の環境ではシステムがすべての運転操作を担当し、 ドライバーは周囲を気にする必要がないレベル。 ただし、システムが対応できない状況になったときは、 ドライバーがすぐに運転を引き継ぐ必要があり。 日本ではホンダ「レジェンド」がこのレベルで世界初の型式指定を受けた(2021年)。 |
| レベル4 | 【高度自動運転】 特定の条件下(地理的範囲や天候など)では、完全に自動運転が可能な段階。 運転席がなくても動作する設計も可能で、その範囲内では人間の関与が不要。 ただし、指定されたエリア(ODD:運行設計領域)を出れば 自動で停止するなど、制約があり。 例:Waymo(米国)やCruiseなどのロボタクシー実証。 |
| レベル5 | 【完全自動運転】 どんな場所・天候でも、車がすべての運転を行う。 ステアリングやペダルが存在しない車も想定され、 人間が運転操作をする場面は一切ない。 現時点では世界のどの企業もこの段階には到達していない。 |
FAQ
Apple Car Projectはいつ始まった?
Appleからの公式告知は、実はありません。
信頼できる報道を総合すると、2014年頃に「Project Titan」として始動したとみられます。
なぜ中止(撤退)したの?
大きくは
(1)完全自動運転の技術的ハードルの高さ
(2)高コストに見合う収益性モデルの不確実性
(3)社内リソースを生成AIへ集中する経営判断
これらが重なったため、と主要報道は伝えています。
現在も研究は続いている?
2024年2月時点でプロジェクトは中止と報じられ、
同年春にはカリフォルニアで614人のレイオフが確認されています。
一方で、AIやセンサー、半導体設計などの知見は、他製品開発へ活用される可能性があります。
まとめ
- 結論: Appleの自動車計画「Project Titan」は2014年頃に始動し、
2024年2月に社内で中止が通知された(公式対外発表はなし)。 - 構想: 当初は高性能EV、のちにステアリング/ペダルなしも視野に入れた完全自動運転(レベル5)を志向。
後年はレベル2+〜一部レベル4へ縮小、価格は10万ドル未満の方向性と報じられた。 - 未完の理由: レベル5実現の困難、採算モデルの不確実性、生成AIへの社内リソース集中。
- 残されたもの: AIアルゴリズム、カスタムSoC、センサー統合、HMI等の知見は他プロダクトへ波及しうる。
この10年にわたる挑戦の旅は、目的地にたどり着く前に静かに幕を下ろしました。
しかし、その過程で得られた経験や技術は無駄にはならず、
Appleの次の製品や、これからの「移動のかたち」を形づくる土台になっていくでしょう。
Appleには、そろそろ「あっ」と驚かせて欲しいですね。iPhoneとかも…。
参考資料・出典(一次情報・公的資料を優先)
※Appleは本プロジェクトを公には詳細開示していないため、
以下は「公的資料」および取材に基づく一次性の高い主要報道を中心に掲示してます。
- Los Angeles Times(2017-04-14): Apple receives permit to test self-driving cars in California(DMV許可の具体内容:レクサスRX450h×3、ドライバー6名)
- The Wall Street Journal(2016-09-09): Apple Reboots Electric-Car Project(ボブ・マンズフィールド氏の関与・方針見直し)
- Reuters(2020-12-21): Exclusive: Apple targets car production by 2024 and eyes ‘next level’ battery technology(計画時期・バッテリー技術の報道)
- Bloomberg(Mark Gurman)(2022-12-06): Apple Scales Back Self-Driving Car and Delays Debut Until 2026(完全自動運転からの縮小)
- Bloomberg(Mark Gurman)(2024-01-23): Apple Dials Back Car’s Self-Driving Features and Delays Launch to 2028(レベル2+、価格10万ドル未満、発売時期延期)
- Bloomberg(Mark Gurman)(2024-02-27): Apple Cancels Work on Electric Car, Shifts Team to Generative AI(社内中止通知、人員のAI部門移動)
- The New York Times(2024-02-28): Behind Apple’s Doomed Car Project: False Starts and Wrong Turns(100億ドル超のコスト)
- Reuters(2019-06-25): Apple buys self-driving car startup Drive.ai(Drive.ai買収の事実確認)
- San Francisco Chronicle(2024-04-04): Apple lays off hundreds of Bay Area workers in first mass cuts since the pandemic(WARNで614人のレイオフ)
- The Wall Street Journal(2024-04-05): Apple Lays Off 614 Workers After Canceling Car Project(レイオフ規模の追認)
- TechCrunch(2017-04-21): Apple’s testing process for autonomous safety drivers revealed in DMV documents(公道試験と車両仕様の補足)

