2026年1月下旬、国連のアントニオ・グテーレス事務総長が加盟国に送った書簡が報じられ、「国連が資金不足で回らなくなるかもしれない」という話が一気に現実味を帯びました。
報道によると、国連は通常予算の資金が2026年7月ごろに枯渇する恐れがある、という趣旨の警告を出しています。
自分の理解のために、一次資料(国連の規則)と報道を突き合わせながら、何が起きているのかを整理してみました。
ポイントは大きく2つのようです。
1つは、未払い分担金(義務的な拠出)の積み上がりで、手元資金(キャッシュ)が細っていること。
もう1つは、国連の会計ルールが資金繰りをさらに苦しく見せる(あるいは悪化させる)構造を持っていることです。
まず事実関係:何が「危機」なのか(通常予算の資金繰り)
報道によれば、国連は2025年末時点で未払い分担金が過去最高水準に達しているとのこと。その結果として2026年の通常予算(国連本部の事務局運営などの基本経費)を、年央(年の半ば)まで回せなくなる可能性があると説明されています。
ここで気をつけたいのは、「国連が解散する」「国連本部が閉鎖決定した」といった話が公式に確定したわけではない点です。現時点で確認できるのは、あくまで資金繰りが危険水域にある、という警告です。
ただし、資金繰りの問題は、活動の中身がどうかという話ではなく、「支払えるかどうか」に直結します。手元の現金が尽きれば、委託費や賃料、IT、警備、出張、会議の運営など、現金で支払う必要があるものから順に滞っていきます。給与も同じく数ある支払いの一つなので、遅れたり、一時的に止まったりするリスクはゼロではありません。
事務総長が「カフカ的」と言った理由:
お金がないのに「差し引き」が起きる仕組み
今回、事務総長が「カフカ的(不条理)」という強い言葉で問題視したのは、予算が使い切れなかった場合、その分が将来の加盟国負担から差し引かれる(クレジット扱いになる)という仕組みです。
この考え方自体は、雑に言えば「使わなかった分は、翌年以降の請求で調整する」というもので、平常時であれば特におかしな制度ではありません。問題は、資金繰りが崩れた局面で、この仕組みが矛盾を生みやすくなる点です。
具体的には、次のような流れが起こり得ます。
- 国連には、予算上は実施できるはずの活動がある
- しかし、分担金の未払いが続き、手元の現金が足りないため、実際には支出できない
- 結果として、活動が未執行になりやすくなる
- 未執行分が増えると「未消化分」として扱われ、一定期間後に予算残が返上(surrender)される
- その返上分が、将来の加盟国への請求を差し引くクレジットに回る
- つまり、現金が足りないにもかかわらず「差し引き」が発生し、資金繰りがさらに苦しく見える、あるいは実際に悪化する
国連の財務規則では、予算(appropriations)は、予算期間が終わったあとも一定期間は支払いのために有効とされています。ただし、その期間を過ぎると、残った予算は返上される、という整理です(たとえば、予算期間終了後に一定の月数を経て返上する、といった規定があります)。
この「返上」が加盟国へのクレジット(差し引き)につながり得るため、資金が不足している局面では、制度上の不条理が目立ちやすくなります。
ここで押さえておくべきなのは、問題の核心が「会計上の数字」ではなく、「手元の現金(キャッシュ)」にある点です。帳簿の上でどう調整されていても、現金がなければ実際の支払いはできません。
言い換えれば、「帳簿では余っているのに、財布の中身が空」という状態です。
滞納はなぜ止められない?国連憲章19条と「現実の運用」
「分担金を滞納する国は、何かペナルティを受けないのか?」という疑問を抱きました。
国連憲章19条には、一定以上の滞納がある加盟国は、国連総会での投票権を失う、という規定があります。
ですが、やはりというか、制度と現実のあいだにはギャップがあるようです。
まず、このペナルティの対象はあくまで「総会での投票権」です。安全保障理事会の拒否権のような仕組みを直接止めるものではありません。
次に、実務上は、滞納が深刻な国が実際に投票権停止となるケースもあり、国連側はその国の一覧を公表しています。つまり、規定自体が形だけ、というわけではありません。
一方で問題になるのが、最大拠出国クラスの滞納や遅延です。こうした国の支払いが止まると、国連の資金繰りへの影響があまりにも大きくなります。その結果、「ルールとしては正しい対応」と「組織を回し続けるための現実的な判断」が正面からぶつかりやすい部分になります。
制度はあっても、適用の仕方には限界がある。ここにも、国連の資金問題が簡単に解決しない理由があるのでしょうね。
給与停止や本部閉鎖は本当に起きるのか:
ここは「事実」と「可能性」を分ける
ここは言い切りが難しいので、線引きをはっきりさせてみます。
事実として言える範囲
- 2026年7月ごろに通常予算の資金が尽きる恐れがある、という警告が出ている(報道ベース)。
- 未払い分担金の増加が、資金繰りを圧迫している(報道ベース)。
- 「未消化分を差し引く」方向に働く会計ルールがあり、資金繰り危機の局面では不条理が目立つ(規則+報道ベース)。
可能性として言える範囲
断定はできませんが…。整理してみます。
資金が詰まったときに現実に起きやすいのは、まず支出抑制です。たとえば、
- 出張・会議の大幅制限
- 外部委託や調達の先送り
- 採用凍結や契約更新の抑制
- 支払い遅延(業者・家主・サービス提供者への未払い)
こうした「止めやすい支出」から絞られ、状況が悪化すれば、給与・家賃・インフラ維持費のような固定費にも波及する、という順番が一般的です。
ただし、「8月に本部がロックアウトされる」「ビルの電気が消える」といった具体的な日付や断定シナリオは、現時点で裏づけを確認できませんでした。
ここは煽らず、あくまで資金繰りの延長線上でのリスクとして扱うだけに済ませておくのが良さそうです。
「あのビル」はどうなる?閉鎖が起きた場合に現実的に困ること
仮に、国連本部の機能が物理的に大きく制限されるほど資金繰りが悪化した場合、影響はイメージ的な問題にとどまらないでしょう。実務面で支障が出やすいのは、次のような点だと考えられます。
- ・会議の運営
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総会や委員会、交渉の場を確保すること自体が難しくなり、通訳や記録、配信といった付随業務にも影響が出る。
- ・情報の管理
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セキュリティの維持や機密情報の保全、ネットワークの運用に支障が出れば、各国が安心して情報をやり取りしにくくなる。
- ・各国代表部や国連機関の調整
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同じ場所に集まっていることで、日常的な調整コストが下がっています。本部機能が弱まると、その「集まっていること自体の効率」が失われる。
- ・外交の中立的な舞台
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どこで話し合うのか、誰が場を仕切るのかは、それ自体が政治問題になりがち。国連本部は、その摩擦を減らす役割も果たしている。
本部が完全に閉鎖されなくても、会議の回数が減る、調整に時間がかかる、現場との連携が鈍るといった形で、じわじわと効率が落ちます。その積み重ねが、結果としてコスト増やリスク増につながっていきます。
回避策:
いま現実的に議論されているカード
報道で繰り返し指摘されている対応策は、大きく分けて二つの方向です。
一つは、分担金を期日どおりに支払う国を増やすことです。要するに、国連に実際の現金が入るようにする、という即効性のある対策です。
もう一つは、会計や予算のルールを見直し、資金繰りの悪化を自動的に広げてしまう仕組みを止めることです。事務総長が「カフカ的」と表現した部分を是正しよう、という動きです。
このほか、国連側が内部改革として、予算削減や業務の見直しを進めているとも報じられています。ただし、こうした削減策は中長期的な体質改善にはつながっても、目先の現金不足を一気に解消するものではありません。
整理すると、短期的に効くのは「入金を前倒しすること」や「滞納を解消すること」。中長期的に効くのは「制度そのものを作り替えること」です。この二つは分けて考える必要があります。
まとめ:
末期症状に見える正体は「組織の病気」ではなく「資金繰りの詰まり」
今回の話を整理すると、見えてくるのは次の点です。
- 国連は「活動の意味を失った」から止まりかけているのではなく、「支払いが回らなくなりつつある」ために機能不全に近づいている
- その資金繰りの詰まりを、未消化分の扱いといった会計ルールが、より分かりにくく、深刻に見せている
- 給与の遅配や本部機能の制限は、現時点で確定した話ではないものの、資金枯渇が進めば現実的に起こり得るリスクとして無視できない
結局のところ、これは国際政治の大きな理念の話に見えて、かなり生々しい「キャッシュフローの問題」でした。
だからこそ、刺激的な見出しに引っ張られるのではなく、「何が事実で、何がリスクで、どこからが推測なのか」を切り分けて見ていくことが重要なのだと、改めて思います。
参考リンク
- AP(2026/1/30報道):https://apnews.com/article/77a204381b059685a490f80f73a0ec97
- Reuters(2026/1/30報道):https://www.reuters.com/world/un-chief-guterres-warns-imminent-financial-collapse-2026-01-30/
- 国連 憲章19条(滞納国の扱い/公式ページ):https://www.un.org/en/ga/about/art19.shtml
- 国連 Financial Regulations and Rules(ST/SGB/2013/4の公開PDF例):https://www.wider.unu.edu/sites/default/files/Procurement/PDF/UN-financial-regulations-and-rules-2013.pdf
