【仮想シナリオ】イラン取引国への追加関税は、世界の取引と日本の現実をどう動かし得るだろうか(2026年2月12日時点)

関税の話は、だいたい「税率は何%か」という数字の話から始まって、最後は「結局、生活に必要なものの値段が上がるのか」という話で終わる。

でも本当は、その間にある「運用」(ルールをどう実際に当てはめるか、現場でどう処理するか)という地味な部分が、世界の取引の流れを左右している。

たとえば、

  • 誰が何を「間接的な取引」とみなすのか(直接イランと取引していなくても、関係があると扱うのか)
  • どこまで説明・証明を求めるのか(取引の経路や関係会社の情報をどこまで出せと言われるのか)
  • どの国に、どんな順番で、どの条件なら適用するのか(例外や猶予があるのか、まず誰から厳しく見るのか)

こうした運用の決め方が揺れると、値上げよりも先に、通関(輸出入の手続き)、保険、決済(代金の支払い)が詰まりやすくなる。まず物流と事務が遅れ、その遅れが時間差で工場や店頭に波として届く。結果として、価格だけでなく「物が届かない」「納期が読めない」といった形で影響が出ることもある。

2026年2月、米国が示した「イランと取引する国への追加関税」という枠組みは、まさにその運用の層に手を入れるタイプの話だったと言えるだろう。

ただし、現時点では全体像がまだ固まっていない。だからこそ、いま必要なのは未来を言い当てること(予言)ではなく、いくつかの分岐(こういう運用ならこう動きやすい、という選択肢)を頭の中に用意しておくことだ。

この記事は、2026年2月12日(日本時間)時点で確認できる公式情報と、信頼できる報道を材料にした仮想シナリオである。将来の出来事を断定するものではない。

目次

税率の数字より先に、「運用のしかた」が世界を動かす

今回の枠組みは、一見すると「関税を何%にするか」の勝負に見えやすい。けれど中身を追うと、ポイントは税率そのものより「どう当てはめるか(運用)」にある。

米国は、イランから財(モノ)やサービスを直接または間接に手に入れている国を対象に、その国の製品が米国に入ってくる段階で、追加の関税をかけられるようにする道筋を示した。

例として25%が挙げられているが、実際にかけるのか、何%にするのか、どこまでを対象にするのかは、その都度、事実関係の確認と政策判断を踏まえて決める、という作りになっている。
(補足:事実関係の確認=その国が本当にイラン由来のモノ・サービスを得ているかを調べて判断すること)

役割分担としては、商務長官が取引の実態を「そうだ」と認め、国務長官が関係する省庁と相談したうえで、どの程度適用するかを決める。

さらに影響が大きいのが「間接」の扱いだ。仲介業者を挟んだり、第三国、つまり別の国を経由したりしていても、筋道立てて見れば「元はイランだ」と言えるなら対象になりうる。

この「間接」をどう扱うかは、対イラン制裁のルールと矛盾しない形で参照するとされ、対象も「米国人がイラン相手には取引してはいけないとされているモノ・サービス」に限る、と明記されている。

ここまで書かれていると、現場で先に起きやすいのは値上げではなく、「それは本当にイランと無関係だと言えるのか」を説明する負担の増加だ。通関(輸出入の手続き)や保険、決済(代金の支払い)で追加の確認が求められ、手続きが遅れる可能性がある。

この先の景色を分けるのは、最初の運用がどちらに振れるかだ。

さて、最悪の方向、楽観的な方向、そして案外ふつうに落ち着く方向。少なくともこの三つの見取り図を、偏りなく同じ厚みで想像してみたので、よかったら付き合って欲しい。

整理:三つのシナリオ比較

まずはざっと、表形式で整理してみた。次の段落からそれぞれ改めて説明していくので、まずはここで全体像をイメージしてもらえたらと。

観点最悪:広く速く曖昧楽観:出口先出しで段階緩和ふつう:限定運用で摩擦管理
運用の特徴対象が広がり、間接の運用が厳しめで線引きが揺れる免除条件や猶予が早めに示され、適用が段階的対象は象徴的に絞られ、制度は残るが過度には走らない
まず詰まる場所保険・金融・通関の審査で遅延が増える証憑の標準化が進み、遅延が管理されやすい遅延は局所的に起きるが、サプライチェーンが学習して馴染む
エネルギー・物流リスクプレミアムが厚くなりやすい供給先転換が進むが、過度な上振れは抑えられやすい上振れと落ち着きが混在し、平常よりは不確実性が残る
国家の反応報復と迂回が競い、摩擦が長引きやすい行動変容と緩和が連動し、落としどころが見えやすい対立は残るが、損得で折り合いを探る方向に寄りやすい
日本への効き方直接の名指しより、世界の説明コスト増が物価と納期に刺さる透明化と多角化が「保険」になり、ショックが薄まるコストは静かに増えるが、致命傷は避けられる可能性が高い
見分ける初動対象国の広さ、間接の厳格運用、出口の不在免除条件の提示、猶予の設計、標準化ガイダンス象徴的指定、限定的範囲、静かな調整

サプライチェーン
「原料の調達から製造・輸送・販売まで、モノが消費者に届くまでの一連の流れ(関わる会社や工程のつながり)」のこと

リスクプレミアム
「損する可能性(不確実さ)がある投資をするなら、その分だけ上乗せでほしい追加の見返り(期待収益)」のこと

最悪シナリオ:
広く、速く、曖昧に進む。値上げより先に「詰まる」

このシナリオの一番の怖いところは、値上げが始まる前に、通関(輸出入の手続き)や保険、決済(代金の支払い)が先に詰まり、モノの流れが遅れることだ。遅れと手続き負担が連鎖し、結果として取引そのものが細っていく。

最悪の形は、対象国の指定が広く、適用が速く、しかも「間接」の意味が現場にとってはっきりしないまま進むケースだ。

制度上、対象は国単位になりうるものである。そして国単位で追加関税がかかると、特定の企業だけを狙う制裁よりも、取引のつながり全体に影響が広がりやすいのだ。企業が「うちは関係ない」と言っても、それだけでは影響を避けられないだろう。関係がないことを示す書類が大量に必要になるからだ。書類が揃わない取引は最初から相手にされなくなる。

その結果、世界の取引は「合法か違法か」だけで分かれるのではなく、「説明できるか、説明しきれないか」で組み替えられていく。

説明しづらいのは、何か後ろ暗い取引だからだろうか?否。そうではない。

原材料が何段階も渡って調達されるケース、混合や加工を挟む中間財(完成品の前段にある部材・材料)、貿易金融を介した決済(銀行の信用状などを使う支払い)、船舶保険が絡む海運(船・貨物の保険がないと運べないことがある)。

こうした複雑さそのものが、説明の手間とコストになる。制度の文面が淡々としていても、現場は安全にやろうと、念の為に厳し目に判断するようになり、必要以上に慎重になるかもしれない。

その副作用は、価格より先に「遅延」という問題として現れてくる。

保険会社は審査を厳しくする。金融機関は取引を通す条件を厳しくする。海運会社は航路や荷主の確認を増やす。そうなれば通関で止まり、在庫が薄い分野では欠品が起きてくる。その結果、欠品は値上げにつながり、その値上げは家計に響いてくる。

米国側でも、広い範囲に適用すれば輸入コストが上がり、物価の押し上げ要因になりうるため、政策は経済面・政治面の両方で反発を受けやすい。それでも短期的に「強くやっている」成果を見せたい圧力が勝つと、この最悪シナリオは現実味を帯びてくるかもしれない。

仮想の例を一つ挙げる。

たとえば第三国でブレンド(混合)された石油製品について、原料をさかのぼるとイラン由来の疑いがあった。そうなると、米国向けの通関と金融審査が同時に厳しくなる。輸送と決済が滞り、ブレンド品を原料にしていたアジアの石化プラント(石油化学の工場)が一時的に生産調整を迫られるようになる。

ここで止まるのは工場だけではない。周辺の部材供給や物流計画まで連鎖的に狂うのだ。これは「原油が足りなくなる」話ではなく、「説明の手続きが滞って、そして動かなくなる」話として起きる。

日本にとっての最悪は、「日本が名指しで対象になる」ことそのものより、「対象国と非対象国の境目があいまいになり、世界全体で説明の負担が跳ね上がる」ことにあるだろう。

日本は輸入資源への依存度が高く、製造業は国境をまたぐ分業(部材や工程を国ごとに分担すること)で回っているからだ。エネルギーや石化原料の調達条件がぶれ、部材の納期がぶれ、保険・物流のコストが積み上がると、物価はじわじわ上がりやすい。為替も、リスクが意識される局面では振れやすい(※)。

どこまで進むかは断言できないが、日本は「変動」そのものが生活実感に先に反映されやすい形であることは頭に入れておきたいものだ。

(※)為替は不安が強いと円高もしくは円安への動きが荒くなることがある。

楽観シナリオ:
先に「抜け道の条件」が示され、圧力が交渉を前に進める

楽観的に考えてみるならば。

この枠組みが「圧力」だけで終わらず、「抜け道の条件(解除・軽減の条件)」までセットで運用されるかもしれない、ということだろう。

免除や猶予の条件が早い段階で示され、対象国に対して「イラン由来の調達を減らす」「取引の見える化を進める」といった行動が、段階的な緩和につながる形になる。制度が国務長官の判断と省庁間の協議を前提にしているのは、こうした運用を可能にするためでもあるからだ。

この場合、世界の企業は「避ける」より「手順を整えてルールに合わせに行く」方向に動きやすい。

取引の根拠を示すのに必要な証拠書類の基準が示されれば、説明のしやすさを上げるための手当ては、単なるコストではなく保険になる。調達先の切り替えも、逃げたり避けたりしなくても、時間はかかれども、「入れ替え」として進めやすい。

市場も、最悪の断絶ではなく「新しいバランスに移っていく過程」として受け止めやすくなる。エネルギー価格や海運コストの上ぶれ圧力は残るが、出口が見えるだけでも結果はだいぶマイルドになってくるだろう。リスクプレミアム(不確実さがあるときに上乗せされる割高分)は小さくなりやすいからだ。

ここでも仮想の例を一つ挙げてみる。

たとえば「対象国では?」と疑われる国が、原産地をたどる手順(原料がどこから来たかを追えるようにすること)と提出書類を整え、米国側がそれを条件に猶予を設ける。
海運・保険・金融は、その基準に沿う取引を「通しやすい取引」として扱い始め、実務は混乱よりも定められた手順に落ち着いていく。表ではニュースの見出しが荒れていようとも、現場は大きな混乱はないかもしれない

こういう収まり方なら、摩擦は残っても、長期の断絶は起きにくい。

しかしながら、ここで一つ不確実な要素が入る。いわゆるトランプ流の進め方だ。

彼の、「圧力と取引を同時に走らせ、強く打ち出したあとで条件を小刻みに調整する」という動きは過去にも見られた。報道では、イランとの合意を探る可能性を示す発言が伝えられている。ただし、発言だけで実際の運用を決めつけることはできない。

見るべきなのは、公式文書に何が書かれるか、そして最初の適用がどう動くかだ。

さて、日本はどういった影響を受けるだろうか。現実的な二点により、楽観シナリオは以下のように考えられる。

第一は、この種の枠組みでは、同盟国には「説明できる体制」を整える時間が与えられやすいこと。
第二は、調達の見える化と分散(一つの国や地域に寄せないこと)は、日本企業がもともと進めてきた方向とも重なること。

エネルギー調達を分散し、企業はコンプライアンス(法令や社内ルールの順守)とサプライチェーン管理(調達から製造・輸送までのつながりの管理)を強め、政府は同盟国としての足並みを示す。そうすることで、マイナスの影響は私たちの生活に及ばない程度に抑えられるかもしれない。

「何を出せばよいか」が先に決まり、手順を立てることができる道筋が見える。それだけでもかなり違うからだ。

普通のシナリオ:
適用は限定的。主要国は損得で折り合い、摩擦は残るが大崩れしない

現実は、最悪でも楽観でもなく、「案外ふつう」に落ち着くことが多いものだ。

ここでいう「ふつう」とは、結局制度は動き出し、いくつかの国には適用され、摩擦は起きる。ただし世界全体が分断に向かうほどではなく、関係国は損得を見ながら落としどころを探る、という状態のことだ。

このパターンでは、対象国の指定は「象徴的な意味合い」を帯びやすい。イラン由来の取引が目立つ国に圧力が集まり、その他の国は巻き込まれないために、取引の見える化(原産地や取引経路を説明できるようにすること)や調達先の切り替えを進める。

対象になった国も報復をにおわせはするだろうが、全面対立が自国の損になる範囲までは踏み込まない。。米国側も、国内の物価や企業負担が重くなりすぎないよう、運用を調整する。

制度の文面に裁量(状況を見て決められる余地)が残されているのは、こうした加減を可能にするためだ。

ここでも仮想の例を一つ挙げてみる。

たとえば、対象国と見られる国からの部材が一部滞り、特定の電子部品の納期が伸びる。メーカーは代替調達を進め、仕様の見直し(部品を変えるための変更)や在庫の積み増しで吸収する。しかし、吸収しきれない部分が「価格」と「納期のぶれ」として残る。
大混乱とまではいかないが、いつもより先が読みづらい状態が続くようになる。そして「値上げ」と「在庫が安定しない」という形で私たちの生活に反映される。

ここでも「トランプの変わり身」は、現実的な形で起きうる。強く打ち出してから、細部を取引で詰めて、結果として限定的な運用に落ち着く、という流れだ。報道で伝えられる合意追求の示唆も、「象徴的な圧力は保ちつつ、実害は抑える」方向の運用につながる材料にはなり得る。ただし、発言だけでは判断できない。免除条件や適用範囲が具体的に出てきて初めて、「ふつうの形」が見えてくるのだから。

日本への影響は、「名指しされるかどうか」より、間接的なコストが積み上がる形で出やすい。どのシナリオにおいても、今回の件についてはこういう形なのだ。

輸入資源の調達は、価格そのものより「条件が厳しくなる」形で反映されてくる。
海運や保険で確認が増え、決済で審査が増え、調達先の監査(取引先がルールを守っているかのチェック)が増える。

製造業は部材が滞ると止まりやすい。止まればコストが出る。そのコストは時間差で価格に乗る。生活者に届くのは、じわじわした値上がり、たまの欠品、そして見通しの悪さだ。

一方で、日本の企業は規制対応や品質保証の経験が比較的厚く、摩擦を「管理して回す」方向に適応できる余地もある。しかしながら、その適応は体力を削っていくものだ。静かにコストとして積み上がる点で、ここが景気の勢いを少しずつ落としていく可能性がある。

まとめ

最悪、楽観、案外ふつう。

念の為に書いておくが、この三つのシナリオはどれか一つが必ず当たるし、当たったらこうなる、という話ではない。

現実的は「最悪も楽観も、そしてふつうも」混ざり合い、途中で形を変えていく。

注目すべきは、対象国指定の初動、間接の運用の厳しさ、免除や猶予の出口の提示、そして関係国の反応が報復か妥協かのどちらへ傾くか、という点だ。

最後に、願いとして一つだけ控えめに書いておく。経済的な圧力は、衝突を避けるためのの手段にもなれば、対立を深めたり、長引かせたりする引き金にもなりうる。どちらに転ぶかは、強さを見せつけることよりも、緩める条件をどれだけ早く、どれだけはっきり示せるか。そして双方が面目を保てる形で合意にたどり着けるかにかかっている。

平和な決着で、関係国がそれぞれに得るものを見いだせる形で終わることを願う。

参考資料(一次情報・根拠)

  • The White House, Executive Order(大統領令本文、2026-02-06)
  • The White House, Fact Sheet(概要、2026-02-06)
  • eCFR, 31 CFR Part 560 / §560.306(イラン原産の財・サービス定義)
  • 報道各社の当日報道(制度発表、政権発言の伝達)
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