【解説】トランプ政権の「イランと取引する国への追加関税」—いま何が起きていて、何が確定していて、何が未確定か(2026年2月12日時点)

本記事は、2026年2月12日(日本時間)時点で公表されている一次情報(ホワイトハウスが出した大統領令の本文・ファクトシート、米国の法令データ)で確認できる範囲を中心に、今回の措置で「何ができるようになるのか」「どんな手続きで動くのか」「どこが揉めやすいのか」を、全体の見取り図として整理したものです。

一方で、価格や為替などの「影響の予想(数字)」は前提条件が多く、確定した事実と同じ場所に置くと誤解を招きやすい。そこで予測の部分は切り分け、別記事(仮想シナリオ)としてまとめてみました。

目次

1. まず要点:今回の措置は何か?

一次情報から、少なくとも次の点までは確認できます。

2026年2月6日、米国大統領は「イラン政府による脅威への対処」を名目に、追加関税をかけられるようにする枠組みを定めた大統領令を出しました。

その対象になりうるのは、「イランからの財またはサービスを、直接または間接に購入・輸入・取得している外国(国)」とされています。その国の産品として米国に輸入される物品に対して、追加の関税を課し得ます。例として25%が示されています。

ただし、追加関税が自動的に一律で発動する、とまでは書かれていません。実際に発動するには、米国政府内で「対象に当たるかどうかの認定」と「どの程度適用するかの判断」を行うプロセスが用意されています。

用語の意味も、あいまいにならないようにあらかじめ決められています。たとえば「イランからの財またはサービス(goods or services from Iran)」という言葉は、米国の対イラン制裁ルール(31 C.F.R. 560.306)で使われている定義と同じ考え方に合わせる、とされています。さらに対象になるのは、その制裁ルール上「米国人がイラン相手には取引してはいけない」とされているモノやサービスに限る、と明記されています。

(補足:31 C.F.R. は米国の規則集の番号です。対イラン制裁ルールは、米国人がイランとどんな取引をしてはいけないかを決めています。)

「indirectly(間接)」には、間に仲介業者が入ったり、第三国を経由したりしていても、取引の流れをたどっていけば「実質的にはイラン由来だ」と説明できる場合が含まれます。あわせて、その判断をどの当局が行うのか(誰が最終的に決めるのか)も、大統領令の本文で決められています。

(補足:ここは運用で一番揉めやすいポイントです。「どこまでたどれたらイラン由来と言えるのか」によって、求められる書類の量や審査の厳しさが大きく変わります。)

大統領令の発効時刻は、米東部標準時で2026年2月7日 0:01 とされています。

2. どういう仕組みで動くのか

ニュースでは「25%関税」という数字だけが切り取られやすいですが、実務で本当に重要なのは、「誰が何を確認して対象を決め、どの段階で関税の有無や水準が決まるのか」という手続きの流れです。大統領令の本文を読み解くと、全体の動き方はおおむね三段階に分かれています。

まず最初に、商務長官が「その国がイラン由来のモノやサービスを、直接または間接に手に入れているかどうか」を認定します。この認定は国務長官と協議しながら行うとされており、ここで「間接」に当たるかどうかの判断も含まれます。商務長官が「当たる」と判断した場合は、その結論と関連情報を国務長官に通知します。つまり、この時点が「対象国として扱うかどうか」を決める入口になります。

次に、国務長官が「追加関税をかけるかどうか」、そして「かけるならどの程度にするか」を判断します。商務長官の肯定的な認定を受けたうえで、国務長官は財務省、商務省、国土安全保障省、USTR(補足:米国通商代表部)など関係機関と協議しながら、適用の有無と水準を決める仕組みになっています。ここが、最終的に関税が決まる段階です。役割分担としては、商務省が事実関係の確認を担い、国務省が政策判断(どこまで、どの強さで適用するか)を担う構造だと言えます。

そして最後に、実務として回すためのルール作りが進みます。大統領令は、国務長官・商務長官・USTRに対して、官報での告示や規則・ガイダンス(補足:現場がどう動けばよいかを示す運用ルールや説明文書)の整備などを通じて、この枠組みを実際に動かす権限と指示も与えています。今後の運用を大きく左右するのは、まさにこの「実務の詰め」で、どの範囲にどんな書類が必要になるのか、どこまでを間接と見るのか、といった未確定の部分がここで具体化していきます。

3. 「25%」は確定なのか?

一次情報ベースで言える結論は、次のとおりです。

大統領令の本文は「追加の従価税(たとえば25%)を課すことができる」という書き方になっており、25%はあくまで例として示されています。一方で、実際に関税をかけるかどうか、かける場合に何%にするかは、国務長官が関係閣僚と協議したうえで決める仕組みです。

つまり、現時点で確実に言えるのは「25%が自動的に一律で適用されると決まったわけではなく、25%という選択肢を含む“追加関税をかけられる枠”が用意された」というところまでです。

4. 「イランからの財またはサービス」とは何を指すのか

大統領令では、対象となる「イランからの財またはサービス」の意味を、31 C.F.R. 560.306の定義と整合させる、と明記しています。

31 C.F.R. 560.306は、考え方としてはこういう枠組みです。
イランで生産・製造・採掘(抽出)・加工された物品はもちろん、いったんイランの商流(補足:イランの取引ルート)に入った物品なども、基本的には「イラン原産品」として扱う(細かな例外規定もあります)。

さらに大統領令の側では、対象を「米国人がイラン相手には取引を禁じられている財・サービス」に限る、としています。この限定は重要で、「イランに少しでも関係したものは何でも無制限に対象になる」という読み方にはならない、という点がここから分かります。

ただし、どの財・サービスが「米国人が禁じられている取引」に当たるのかは、対イラン制裁の具体的なルール体系と一緒に確認する必要があります(OFACの規則や解釈を含むため)。

そのため、特定の品目が確実に対象だ/対象外だ、と品目レベルで断言するのはまだできません。

5. 「間接(indirect)」の扱い:サプライチェーン論点が発生する理由

大統領令では、「間接(indirectly)」についても書き方がはっきりしています。

仲介業者を挟んだり、第三国を経由したりしていても、取引の流れをたどって「元はイランだ」と合理的に説明できるなら、間接取得に含める、ということです。そして、その「合理的にさかのぼれるかどうか」を判断するのは商務長官だ、とされています。

このため企業実務では、早い段階から次の論点がでてきます。

まず、原材料や中間財(補足:完成品になる前の部材・材料)が多段階で流れる場合、どこまで追えれば「合理的に説明できた」と言えるのか、という線引きです。

次に、ブレンド(混合)や加工を挟んで原産地の判定が難しくなるケースを、どう扱うのかという問題です。

さらに、自社として「イラン由来ではない」と完全には言い切れない場合に、どの程度のデューデリジェンス(補足:取引先や供給元を調べてリスクを下げる確認)をすれば足りるのか、という点も焦点になります。

現時点では、どんな証拠書類(証憑)のセットが標準になるのかが確定していないためです。

結局のところ、運用の厳しさを左右するのは、これらを具体化するガイダンス(補足:官報での告示や運用指針など、現場向けのルール・説明)がどこまで出るか、という点になります。ガイダンスが具体的で共通の基準が示されれば実務は回しやすくなりますが、抽象的なままだと各社が念のため厳しめに判断して取引を絞り、手続きが滞りやすくなるでしょう。

6. 「対象は国」なのか「企業」なのか:制度の性格

今回の追加関税は、基本的に「国」を単位に動く仕組みです。大統領令の本文は、ある「外国(foreign country)」がイラン由来の財やサービスを取得しているかどうかを認定し、その国の産品として米国に入ってくる物品に追加関税をかけ得る、という組み立てになっています。

これは、特定の企業や個人を狙って資産凍結などを行う典型的な制裁とは性格が違います。貿易政策としての関税という形を使い、国単位で圧力をかけられるようにしている点が特徴です。

そのため報道では「二次制裁に近い」と表現されがちです。ただし、「二次制裁」という言葉自体は大統領令の中で使われている法的な用語ではありません。ここでは、制度の性格を説明するための便宜的な言い方として触れるにとどめておきます。

7. 「いつから動くのか」:発効と実際の適用のタイムライン

確定しているのは、大統領令の発効時刻だけです。発効は米東部標準時で2026年2月7日 0:01と明記されています。

一方で、現時点ではまだ決まっていない点がいくつかあります。

まず、どの国が対象として、いつ商務省から「該当する」と認定されるのかは未確定です。次に、その認定を受けたあと、国務省が追加関税を何%にするのか、どの品目や範囲にかけるのか、いつから適用するのかも、まだ具体化されていません。

さらに、制度を実際に動かすための実務ルールがどうなるかも見えていません。たとえば官報で何が告示されるのか、税関の運用としてHSコード(補足:輸出入品の分類番号)をどう扱うのか、適用開始時の通関ルール(補足:いつの時点の輸入にかかるのか、どんな書類が必要か)をどう定めるのか、といった部分です。ここが固まらない限り、企業側は具体的な対応を確定しにくい状況が続きます。

8. 日本に関係する論点

ここでは、日本に関係しやすいポイントを整理してみます。ただし、今この時点で一次情報から言い切れることと、まだ材料が足りず言い切れないことは分けて書きます。

8-1. 現時点で言えること

まず、日本が「対象国」になるかどうかは、商務省による事実確認と、国務省による政策判断の結果次第です。したがって、2026年2月12日時点では確定していません。

また、対象かどうかを決める軸は「その国がイラン由来の財やサービスを、直接または間接に取得しているか」です。少なくとも大統領令の本文上は、いきなり一律に決め打ちするのではなく、事実関係を認定する手続きが前提になっています。

さらに、「間接」の定義が入ったことで、エネルギー、化学、金属、機械など、国際的に部材や原料が行き来するサプライチェーンでは、原産地をたどれる形にしておくことや、説明用の書類(証憑)を整えておくことの重要性が増す可能性があります。ただし、どこまでを求められるのかは、今後の運用次第であり、現時点では未確定です。

8-2. 現時点では言えないこと

一方、現時点では明らかになっておらず、断定できないこともあります。

ガソリン価格や電気代、為替といった「数字としての影響」は、この枠組みだけで機械的に決まるものではありません。原油の需給、地政学リスク、OPEC+の動き、米国の金融政策、国内の補助金など変数が多いためです。

日本の個別産業(自動車、電機、半導体など)への影響も同様です。対象国の指定があるかどうか、適用範囲(どの品目か、税率は何%か、いつからか)がどう定まるかで振れ幅が大きいためです。

まとめ

2026年2月12日時点で、一次情報から確実に言えるのは次の3点です。

第一に、「イランからの財・サービスを直接または間接に取得する国」の産品に、追加関税を課し得る制度の枠組みが、米国の大統領令として発効したこと。数字のインパクトが先に立ちますが、現時点で確実なのは「追加関税をかけられる枠が動き出した」という事実です。

第二に、対象国に当たるかどうかの認定は商務省が担い、税率や適用の有無・範囲は国務省を中心に関係機関が協議して決める仕組みになっていること。つまり、自動的に一律で決まる話ではなく、政府内の判断プロセスが前提だということです。

第三に、「間接」まで含む定義が置かれているため、サプライチェーンのトレーサビリティ(原料や部材の出どころをさかのぼって説明できること)をめぐる論点が前に出やすくなること。ここは、値上げより先に「説明の負担」が増えるかもしれない、という嫌な感じが残るポイントでもあります。

一方で、どの国が実際に対象になるのか、税率が本当に25%になるのか、どの品目・どの範囲に、いつから通関(輸入手続き)で適用されるのかは、まだ確定していません。ここは、追加のガイダンス(官報告示や運用指針)と、その後の運用判断を待つ必要があります。

ここまでが、一次情報から確認できる「制度として何が書かれているか」「どう動く仕組みか」の部分です。

ただ、実際の影響は、どの国が対象になるのか、税率や適用範囲がどう決まるのか、そして「間接」の運用がどこまで厳しくなるのかで大きく変わります。

そこで次の記事では、断言や予言はせず、現時点であり得る分岐を「最悪」「楽観」「普通」の3つに整理し、運用がどちらに振れたときに、商流・通関・保険・決済、そして日本の暮らしにどんな形で影響が出やすいかを仮想シナリオとして想像してみました。こちらもぜひ。

参考資料(一次情報・根拠)

  • The White House, Fact Sheet: President Donald J. Trump Addresses Threats to the United States by the Government of Iran (February 6, 2026)
    https://www.whitehouse.gov/fact-sheets/2026/02/fact-sheet-president-donald-j-trump-addresses-threats-to-the-united-states-by-the-government-of-iran/
  • The White House, Executive Order: Addressing Threats to the United States by the Government of Iran (February 6, 2026)(本文)
    https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/2026/02/addressing-threats-to-the-united-states-by-the-government-of-iran/
  • eCFR (U.S. Government Publishing Office), 31 CFR § 560.306 Iranian-origin goods or services(定義)
    https://www.ecfr.gov/current/title-31/subtitle-B/chapter-V/part-560/subpart-C/section-560.306
  • Reuters, Trump signs order threatening tariffs on nations doing business with Iran (Feb 6, 2026)(報道:一次情報の補助)
    https://www.reuters.com/world/middle-east/trump-signs-order-threatening-tariffs-nations-doing-business-with-iran-2026-02-06/
よければ応援お願いします。Thank you! OFUSEで乾杯する
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
目次