「半導体の冬」はどこへ?モルガン・スタンレーの手のひら返しを信じてサムスン株を買っても大丈夫?

2024年ごろ、「半導体の冬が来る」と言われ、半導体関連株の空気が一気に冷えたのを覚えている人も多いと思います。ところが2025年から2026年にかけては、今度は「AIの波でメモリが足りない」「価格が上がる」といった話が前面に出てきました。

この温度差が、話をややこしくしているような気がします。

結論から言えば、モルガン・スタンレーが何と言ったか、という一点だけで売買を判断するのは危険です。ただし、彼らの見方が変わった背景にある「需給の構造がどう変わりつつあるのか」は、投資判断の材料として無視できないと思いました。

私自身、ロイターの記事を見て「結局、どっちなの?」と惑ったのです…。そこで、企業の公式発表などの一次情報と、信頼できる報道で確認できる範囲をつなぎ合わせて、状況を整理してみることにしました。

本記事は投資助言ではありません。個別株の売買は、必ずご自身でリスクを確認して判断してください。

目次

なぜ「冬」から「夏」みたいな話に変わったのか?

これは気分や期待の問題ではなく、市場の重心が移った影響が大きいです。

これまでのメモリは、スマートフォンやPCの販売動向に左右される「景気連動型」の性格が強い商品でした。需要が落ちれば在庫が積み上がり、価格が下がり、メーカーの利益も一気にしぼむ。これが、「メモリは波が激しい」と言われてきた理由です。

ところがAIの普及によって、メモリ需要の中心が「AIデータセンター」へ移りつつあります。AI向けでは、汎用メモリだけでなくHBMのような高性能メモリが重要になり、しかもそれは短期間で増産しにくい。ここが、これまでの「冬を前提にしたロジック」が当てはまりにくくなっているポイントです。

(注)HBM=High Bandwidth Memory(高帯域メモリ)。AI向けGPU/アクセラレータで性能を出すために必要になりやすいメモリです。

モルガン・スタンレーが見直したのは「供給が追いつかない現実」

モルガン・スタンレーの見方が変わった、という話題は目を引きますが、重要なのは「誰が言ったか」よりも、「何が変わったのか」です。
(確かにモルガン・スタンレーと聞くと、「誰が言った」がすごく大事になように感じてしまいますけども…。)

投資銀行のレポートは基本的に有料で、全文を誰でも確認できるわけではありません。そこでこの記事では、公開情報として裏取りできる範囲(企業の公式発言や、Reutersなどの信頼できる報道)に絞って、出来うる範囲で整理してみました。

現時点で、比較的はっきり確認できるポイントは大きく3つあります。

1) HBMは「作るのが難しい」ため、供給を急に増やせない

HBMは、メモリチップを積み重ねて高速にデータをやり取りできるようにする分、製造や組み立て(とくに後工程)の難易度が高くなります。設備投資をすれば、すぐに生産量を倍増できる、という種類の製品ではありません。

実際、SK hynixは、2024年分のHBMはすでに売り切れており、2025年分についてもほぼ売り切れている、という趣旨のコメントをしています。少なくとも短期では、需要の強さが供給能力を上回っていたことが分かります。

そして、2026年に入ってもメモリ供給の逼迫は続いています。SK hynixの経営陣は、AI関連需要の高まりでメモリ供給が全体としてひっ迫しており、顧客がスマホ・PC向けの購入計画を慎重に見直す動きがあることを認めています。供給が追いつかない状況があるため、メモリ価格の上昇圧力が製品側にも波及している、との報道が出ています。

また、サムスンやSK hynixの幹部も、AI向けメモリ需要が強く、供給制約がしばらく続く可能性を示唆しています。こうした言及を総合すると、短期的には依然として需要の強さが供給を上回っている局面が続いている、と読み取れます。

(注)後工程とは、回路を作ったあとに、切断・接続・封止・検査を行い、最終製品に仕上げる工程です。HBMはこの部分が特に難しくなりやすいとされています。

2) 価格が上がりやすい局面に入っている

「メモリ価格が上がっている」という話は感覚論になりがちですが、ここは数字が出ています。

市場調査会社トレンドフォースは、2026年1QのDRAM契約価格が前四半期比で大幅に上昇する見通しを示しており、ロイターも「90%〜95%上昇」と報じています。

こうした契約価格が上がる局面では、供給側(メモリメーカー)の利益が出やすくなります。一方で、スマートフォンや家電、PCなど完成品側にとっては、コスト負担が重くなりやすい局面でもあります。

(注)契約価格とは、スポット価格(その場限りの取引)ではなく、企業間の取引で使われる基準価格のこと。

3) 供給側が強くなると、買い手の交渉力は弱まりやすくなる

これも感覚的な話ではありません。ロイターは、サムスンの決算を扱った記事の中で、AIブームがメモリ需要を押し上げ、供給の逼迫が2026〜2027年にかけても続く可能性に触れています。

「売る側が強い」状況は、投資家から見ればメーカーに追い風です。ただし同時に、供給が増えたり需要が減速したりしたときの反動が大きくなりやすい、というリスクも内包します。

(注)上がる理由がはっきりしている相場ほど、前提が崩れたときの調整は速く進むことがあります。

2026年2月の「時価総額1000兆ウォン」は何を意味しますか?

この数字はインパクトが強い一方で、読み方を誤ると判断を誤りやすいポイントでもあります。

まず事実として、2026年2月時点で、サムスン電子の時価総額が1000兆ウォンを超えた、という報道は複数出ています。また、韓国メディアでも同趣旨の報道が確認できました。

ただし、時価総額が大台に乗ったからといって、「これからも安心して上がり続ける」と言えるわけではありません。市場がこの数字に織り込んでいるのは、主に次の2点です。

  • メモリ価格の上昇が、しばらく続くという見方
  • HBMを巡る供給能力やシェア争いで、利益の取り分を維持できるという期待

言い換えると、株価の中身は「需給の強さがどこまで続くか」と「競争の中で優位を保てるか」に集約されます。時価総額そのものの大きさよりも、こうした前提条件を見ておく方が、状況や未来予想図を冷静に捉えやすくなります。

(注)時価総額とは、株価に発行株式数を掛けたものです。企業価値の見られ方を示す指標ですが、将来予想や期待の影響を強く受けます。

今から買っても大丈夫なのか?

ここは正直に言います。
「今から買っても大丈夫です」と一概には言えません。なぜなら、購入価格、想定している時間軸、どこまでの下落を許容できるかで、答えが変わるからです。

ただし、判断をシンプルにするための「見るべきポイント」は整理できるかもしれません。やることは大きく4つです。

判断軸1:HBMの品薄が緩む兆しは出ていないか?

たとえば、供給能力の増強ペース、長期契約の状況、主要顧客(クラウド・AI事業者)の投資計画に鈍化の兆しが出ていないか、といった点です。ここが崩れ始めると、相場の空気は一気に変わります。

(注)こうした兆しは、ニュース見出しよりも決算資料や経営陣のコメントに出やすいです。売上の中身、とくに高付加価値品の比率も確認します。

判断軸2:価格上昇は「一時的な跳ね」か、「構造的な変化」か?

トレンドフォーのようなデータは、短期の温度計として使えます。価格が上がっている間はメーカーに追い風ですが、上がり方が急なほど、反動のリスクも高まります。急騰する相場は、調整も速く進むことがありますから。

判断軸3:メモリ側の好調が、別の場所で「負担」になっていないか?

メモリメーカーの利益が伸びる一方で、スマートフォンや家電、PCといった完成品側のコストが苦しくなっていないかも重要です。サムスン自身も、メモリ価格上昇が他部門の重荷になり得る点に言及しています。

ここが大きくなると、景気全体からブレーキがかかることがあります。そう、実は強い部品が、別の産業に負担を押し付ける局面は珍しくないからです。

判断軸4:自分の時間軸に合った向き合い方か?

短期で狙うなら、値動きの大きさ(ボラティリティ)を前提にする必要があります。中長期で考えるなら、「需給の構造が崩れるまでは持つ」ということになります。

いずれにしても、「誰かの強気レポート」を根拠に動くより、「この前提が崩れたら、この相場からは降りる」といったルールを先に決めておく方が安全かもしれませんね。

【注意】「関連株なら何でも上がる」は危険(特に周辺銘柄)

半導体相場でよく見られるのが、

「本丸(大手メーカー)が強い」
→「周辺(装置・部材・後工程)も全部上がる」
→「決算で差が出て、一気に振り落とされる」
という流れです。

つまり、これからは「全体が一緒に上がる相場」ではなく、二極化が起きやすい局面に入っています。

一例として、韓国の装置メーカーであるHanmi Semiconductorについては、アナリストの見方が割れていることが、投資情報サイトの評価一覧から確認できます(CitiによるSell評価など)。

もちろん、これだけで個別銘柄の評価を断言することはできません。ですが、「半導体関連だから安心」「周辺銘柄だから堅い」といった発想は、通用しにくくなっているようです。期待が先に走っている銘柄ほど、前提が崩れたときの調整は速い、という点は意識しておくべきです。
(これは分野に限らない話ですね)

(注)周辺銘柄とは、装置・部材・後工程などを指します。需要の波は来やすい一方で、勝者が固定されるとは限りません。

まとめ

モルガン・スタンレーの見方が変わった背景には、AI投資の拡大と、HBMを中心とした供給制約があります。この点は、単なるニュースの論調ではなく、データや企業発言から確認できる材料が増えてきました。

たとえば、

  • HBMは短期に増産しづらく、需給が引き締まりやすい構造にあります。実際に、主要メーカーが供給のタイトさを示唆する発言をしています。
  • 価格動向についても、市場調査会社のデータで、2026年初にかけて大きな上昇が示されています。
  • サムスン電子の時価総額が1000兆ウォンを超えたこと自体は、事実として複数の報道で確認されています。

ただし、これらをそのまま「今から買えば勝てる」と短絡的に結びつけるのは危険です。実際に投資を考えるなら、需給が崩れ始めたサインでどう動くか、想定する時間軸と下落への耐性はどこまでか、そして周辺銘柄をどう選別するか。

ここまで含めて考えるのが現実的です。

強い材料がそろっている局面ほど、前提が変わったときの調整も速くなります。大事なのは、強気な見出しに乗ることより、「どこに異変が出たら、どこが崩れたら、判断を変えるか?」を先に決めておくことです。

出典・参考

【出典・参考資料一覧】

  • Reuters(2024/05/02)
    SK hynix「HBMは2024年分売り切れ、2025年分もほぼ売り切れ」
    https://www.reuters.com/technology/nvidia-supplier-sk-hynix-says-hbm-chips-almost-sold-out-2025-2024-05-02/
  • Reuters(2026/02/02)
    TrendForce見通し「DRAM契約価格が2026年1Qに90%〜95%上昇」
    https://www.reuters.com/technology/trendforce-sees-chip-prices-surging-90-95-q1-previous-quarter-2026-02-02/
  • Reuters(2026/01/28)
    サムスン決算とAIブームによるメモリ需給逼迫
    https://www.reuters.com/world/asia-pacific/samsung-profit-triples-record-high-ai-boom-exacerbates-chip-shortage-2026-01-28/
  • UPI(2026/02/04)
    サムスン電子の時価総額が1000兆ウォンに到達
    https://www.upi.com/Top_News/World-News/2026/02/04/biz-samsung-reach-market-capitalization-ten-trillion-won/6731770251655/
  • Mirae Asset TIGER ETF
    TIGER Semiconductor TOP 10 ETF(商品概要)
    https://investments.miraeasset.com/tigeretf/en/product/search/detail/index.do?ksdFund=KR7396500001
  • Investing.com
    Hanmi Semiconductor アナリスト判断一覧(CitiのSell評価など)
    https://www.investing.com/equities/hanmi-semicon
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