2026年に入ってから、「HBMが足りない」「メモリがまた強い」「サムスンやSKハイニックスが大きな利益を出すかもしれない」といった話が、ニュースの見出しで目立つようになりました。
一方で、頭の片隅にはこうした疑問も残ります。「半導体の冬って言っていなかったっけ?」と。こういう温度差があると、話題は盛り上がる一方で、どこまで信じていいのか判断しづらくなります。
そこでこの記事では、AIブームの中心にいるHBMが何なのか、なぜ韓国勢に収益が集まりやすいのかを、自分の理解のために、できるだけ噛み砕いて整理してみました。あわせて、「じゃあ日本は不利なのか?」という問いに対して、装置・素材といった強み、TSMC熊本やラピダスといった国内の動きも含め、日本がどこで関与し、どこに可能性が残っているのかを、過度に持ち上げずにまとめてみようと思います。
まず前提:この話の主役は「メモリ」ではなく「HBM」
従来のメモリ(DRAM)は、PCやスマホの売れ行きに強く左右される、いわば波の激しい商材でした。需要が落ちれば在庫が積み上がり、価格が下がり、メーカーの利益も一気にしぼむ。
だから、いわゆる「半導体の冬」が定期的に訪れるのは、珍しい話ではありませんでした。
ところが、AIの時代になると状況が少し変わってきます。
AI向けの計算部品であるGPUやアクセラレータは、計算そのものは非常に高速です。しかし、計算に必要なデータの出し入れが追いつかないと、性能を十分に発揮できません。
つまり、処理全体の足を引っ張るのは、計算能力よりも、メモリ側の「データの通り道」になりやすいのです。
その詰まりを一気に押し広げる役割を担っているのがHBMです。
HBMとは?ざっくり言うと「GPUの隣にある、太いメモリ道路」。
HBMは、メモリチップを縦に積み重ね(スタックし)、ごく短い距離で大量のデータをやり取りできるようにした設計です。
イメージとしては、遠くの高速道路まで行くよりも、家の目の前に「太い専用道路」を作るようなもの。GPUのすぐ隣に置くことで、データを一気に流せるのが大きな強みです。
(注)HBMは High Bandwidth Memory(高帯域メモリ)の略で、AI向けに採用が増えやすい方式です。
さらに重要なのは、HBMがとても作りにくい製品だという点です。
チップを正確に積み重ねる、確実につなぐ、発生する熱を逃がす、そして良品率を高める。実はこの一つ一つが難しく、設備を入れたからといって短期間で生産量を大きく増やせるわけではないのです。
これが、「HBMが足りない」という状況が起きやすい理由です。
(注)HBMは High Bandwidth Memory(高帯域メモリ)の略で、AI向けに採用が増えやすい方式です。
(注)良品率とは、製造したもののうち、実際に出荷できる割合(歩留まり)のことです。
なぜサムスンとSKが強く見えるのか?
AIブームの話になると、生成AIのアプリやクラウド、SaaSといった「サービス側」に目が行きがちです。ただ現場では、AIは部品がそろわなければ動きません。どれだけ優れた構想があっても、計算資源が足りなければ「回せない」からです。
いま起きているのは、ざっくり言えば次の連鎖です。
AIで勝つためにGPUを増やす
→ GPUを十分に回すにはHBMが要る
→ そのHBMが足りにくい
→ HBMを安定供給できる側が強くなる
この構図が「過去の一時的な品薄」で終わっていない、という点が2026年のポイントです。
HBMで先行するSK hynix
ロイターの報道では、SK hynixは2025年10月の時点で主要顧客との2026年分のHBM供給協議を終えた、と説明しています。さらにロイターは、AI需要の強さを背景にした供給逼迫の文脈で、SK hynixが2026年分についても「売り切れ」を示唆する発言をした、と報じています。
加えて、2026年1月のロイター報道でも、SK hynixの好決算の背景としてHBM需要の強さが繰り返し言及されており、「HBMを作れて、売れるところが強い」という状況が続いていることが確認できます。
もちろん、「売り切れ」「供給協議を終えた」といった表現は、企業がその時点で示す見通しや契約状況に基づくもので、将来の需給が固定されるわけではありません。ただ少なくとも、2026年の時点でも「HBMは供給を急に増やしにくい必需品で、売る側が強くなりやすい」条件がそろっている、というところまでは言えます。
追い上げを図るサムスン
サムスンについても、構図は同じです。ロイターは2026年初めの報道で、サムスンが次世代のHBM(HBM4)の量産準備を進め、主要顧客向けの供給を視野に入れていると伝えています。
現時点では、HBM市場での主導権はSK hynixが先行していると見られていますが、サムスンも大規模投資と技術開発で巻き返しを狙っている段階です。
重要なのは、サムスンが「HBMを軽視している」のではなく、むしろAI向けメモリを成長の柱として位置づけ、次世代製品に資源を集中させている点です。つまり、HBMをめぐる競争は一社独走というより、「限られた供給能力を、少数の大手が奪い合う」状態が続いています。
このため、SK hynixが短期的に強く見える局面があっても、サムスンを含めた少数プレイヤーによる供給体制そのものが、HBMを「足りにくい必需品」にしている、という構造は変わっていません。
「韓国2社が独占している」は本当か?
こう行ったテーマに限らないのですが、基本的にはニュースなんてのは派手な、あるいは極端な見出しになる音が多いですよね。ここでは一度、線を引いておきます。
まず、確認しやすい事実は次の点です。
HBMは供給できる企業が限られており、少数の大手が中心になっている市場だということ。
一方で、言い過ぎになりやすい表現といえば。
たとえば、「韓国2社が独占している」「市場の8割以上を支配している」といった断定的な言い方。
HBMの市場シェアについては、複数の調査会社が推計を出していますが、いずれも一次資料ではありません。たとえば、Counterpoint Researchは四半期ごとにHBMを含むDRAM市場のシェア推移を公表しており、SK hynixやサムスンが大きな比率を占める局面があることは示されています。
あわせて、Micronも主要なプレイヤーとして掲載されています。
ただし、こうした数字は推計であり、前提や切り取り方によって見え方が変わってきます。シェアが大きい、ということは事実ですが…。
日本は置いていかれるだけなのか?
「HBM=韓国の土俵」であることは、はっきり意識しておく必要があります。日本が同じ土俵で正面から競争するのは、現実的には簡単ではありません。
一方で、日本が関与できる余地がまったくないわけでもありません。
半導体は完成品だけで成り立つ産業ではなく、装置、素材、検査、後工程といった周辺分野が詰まるほど、全体の生産が止まりやすくなります。日本が強みを持ってきたのは、まさにこうした周辺領域です。
ただし、ここは楽観しすぎないほうがいいでしょう。
過去には、対韓輸出管理強化をきっかけに、韓国側が内製化や調達先の多角化を進め、日本の優位が相対的に弱まった分野もありました。また、資源や重要部材の調達が地政学リスクにさらされる例は、中国からのレアアース問題などでも経験しています。
つまり、「日本は周辺で効く」という立場は、放っておいて自動的に守られるものではありません。技術の更新、供給網の分散、同盟国との役割分担を誤れば、日本の強みも簡単に置き換えられます。
現実的に言えば、日本は
「HBMの主戦場ではないが、周辺で不可欠な存在でいられるか」
を常に問い直される位置にあります。
ここを維持できるかどうかは、技術と投資、そして政策の積み重ね次第です。
TSMC熊本の3nm計画、日本の立ち位置はどう変わるのか
2026年2月、TSMCが日本(熊本)のJASMで3nm生産を計画している、という報道が出ています。ロイターは、TSMCのCEOが熊本で3nmの量産計画に触れたと伝えています(投資額については約170億ドルとの報道もありますが、TSMC側が数字を確定していない部分があります)。
この動きが事実であれば、日本の立ち位置は「レガシー中心の拠点」から、世界最先端そのものではないにせよ、先端世代の量産をTSMCのグローバル生産網の中で分担する拠点へと、意味合いが変わる可能性があります。
なお、「最先端」を掲げる動きはあります。ラピダスは自社サイトで、2027年に2nmの量産開始を目指すと明記しています。さらにIBM Researchも、ラピダスとの2nmに関する進展(量産スケールに近づくための技術的マイルストーン)をブログで紹介しました。
ただ、そうはいっても、TSMC熊本の3nmは「計画が報じられている段階」で、詳細はこれからのようです。かつ、ラピダスの2nmは「目標として明示されている」一方で、量産は技術・設備・人材・供給網・顧客獲得など複数の条件がそろって初めて成立します。
要するに、日本の半導体は「明るい材料がない」わけではないが、「このまま行けば大丈夫」と言える局面でもない、ということです。
(注)
半導体の「最先端」は固定されたものではありません。2026年時点では、最先端世代は2nmクラスに移行しつつあり、さらに1.6nm世代の量産計画も視野に入っています。
3nmは依然として高難度な先端プロセスですが、世界の最前線そのものではなく、「先端世代の一角」という位置づけになります。
2028年以降のリスク:注意すべきは「供給が追いついた瞬間」
ここまでの話は、基本的に「HBMが足りない」という前提で成り立っています。逆に言えば、リスクとして警戒すべきなのは、供給が追いついて需給が緩んだ局面です。
増産も投資も進みます。だから、どこかのタイミングで需給は必ず緩みます。
そのとき、メモリは昔からの性格「景気の波に振れやすく、価格が動きやすい」を取り戻しがちです。需要が少し鈍っただけでも、在庫と価格の調整が一気に進むことがあります。
加えて、需給とは別のリスクも残ります。
地政学リスク、輸出規制、電力制約などでサプライチェーンが詰まる可能性は消えません。上がる理由が分かりやすい局面ほど、崩れるときも早い。そういったことを頭の片隅にしっかりおいて、観察するのがいいでしょう。
まとめ
HBMは、AIの性能を引き出すうえで重要性が高く、しかも増産が簡単ではありません。そのため、供給できる側に収益が集まりやすい構造があります。SK hynixの「売り切れ」に関する発言は、そうした構図が実際に起きていたことを示す材料の一つです。
そんな中、日本が同じ土俵でHBMの主役になるのは簡単ではありません。
ただ、日本には装置・素材・検査といった「外せない周辺分野」があり、ここはAI投資が続くほど重要性が増します。加えて、TSMC熊本の3nm計画(報道)や、ラピダスの2nm量産目標(公式)といった、先端側に近づく動きも出てきています。
結局のところ、このテーマは「韓国が勝った/日本が負けた」と単純化するより、このAI時代にどこが急所に、または詰まっているのか?を考えていく方が現実的だろうと思います。
ニュースの見出しが派手になるほど、見るべきポイントは地味になります。需給の変化、供給能力の広がり方、そして日本が関与できるボトルネックを淡々と追う。それが、いちばん判断を誤らないかなと自分は考えています。政治的なことも含めて、になりますが。
出典・参考
【参考資料・出典】
- Reuters(2024/05/02)
SK hynix「HBMは2024年分売り切れ、2025年分もほぼ売り切れ」
https://www.reuters.com/technology/nvidia-supplier-sk-hynix-says-hbm-chips-almost-sold-out-2025-2024-05-02/ - Counterpoint Research
Global DRAM and HBM Market Share(四半期ベースの市場シェア推移、推計)
https://counterpointresearch.com/en/insights/global-dram-and-hbm-market-share - NVIDIA Developer Blog(公式)
Rubin Platformの設計概要
https://developer.nvidia.com/blog/inside-the-nvidia-rubin-platform-six-new-chips-one-ai-supercomputer/ - Microsoft Azure Blog(公式)
RubinおよびHBM4/HBM4eに触れたAIデータセンター設計論点
https://azure.microsoft.com/en-us/blog/microsofts-strategic-ai-datacenter-planning-enables-seamless-large-scale-nvidia-rubin-deployments/ - Reuters(2026/02/04)
TSMCが日本(熊本)で3nm量産計画に言及
https://www.reuters.com/world/asia-pacific/tsmc-plans-3-nanometre-chip-production-japan-with-17-billion-investment-yomiuri-2026-02-04/ - Rapidus(公式)
2027年に2nm量産開始を目指す計画
https://www.rapidus.inc/en/tech/te0006/ - IBM Research(公式)
Rapidusとの2nm量産スケールに向けた技術的進展
https://research.ibm.com/blog/rapidus-ibm-move-closer-to-scaling-out-2-nm-chip-production
