【マフィアシティ】豪傑の風格一覧表を更新しました

【ショート・ショート】静かな崩壊

東京の永田町にある首相官邸。
その地下の深いところに「秘密の部屋」が存在していたことを、君は知っているだろうか。

知る由もないだろう。

部屋の存在を知っているのは、ほんの一握りの政府高官だけだったからだ。
その部屋の中央には、金属製の小さな箱と真紅のボタンが置かれていた。

ボタンの上には「決して押すな」と書かれていた。

目次

壊したのは政党ではなく、日本そのものだった

推すな、と言われれば押したくなるのが人間のサガだろうか?
いや、それでも長い間、誰もがその欲望を押し込めてやり過ごしてきた。

それなのに。とうとうある日、若手官僚が

「これ、押せってことでしょ?押すなよ推すなよって、押せよってことなんだから」

とそのボタンを押してしまった。

「カチッ」

その瞬間、日本全土で異常現象が次々と発生した。

改革の名のもとに壊された「普通の生活」

時を戻そう。

この異変の根源には、かつての首相である南條元首相が秘めた野望があった。

彼は2000年代に「オレの政党をぶっ壊す」と宣言し、国民からも圧倒的支持を得て改革を推進した。

しかし、彼が本当に壊したかったのは政党そのものではなかったのだ。

南條元首相が標的にしたのは、「平均的な国民たちの、普通の生活」だった。

彼の改革は格差を拡大し、安定した職を奪い、正社員から非正規雇用へのシフトを加速させた。
これにより、かつて「一億総中流」と言われた日本は、階級社会へと変貌を遂げたのだ。

南條元首相は、その冷徹な視線でこう考えていた。

「普通の奴ら、貧しい奴らが這い上がれない社会こそが、強い国だ」と。

彼にとって、国民の平穏な生活はただの「無駄な贅沢」でしかなかったのだ。

平和への裏切りと「国際貢献」の名の下での軍事化

南條元首相のもう一つの野望、それは日本の「平和」を壊すことだった。

彼は、日本を再び世界の舞台に立たせるために、
「国際貢献」という名のもと、軍事的な役割を増していく政策を進めた。

彼は、戦争を放棄し他国との平和な共存を求める戦後日本の精神を、「甘え」として軽蔑していた。

むしろ、彼は強硬路線を好み、日本が再び「強国」として世界に君臨することを望んでいた。
その願いは彼以降の民自党には堂々と引き継がれた。

日本はかつての平和主義を捨て、次第に軍事的な挑発を繰り返す国へと変わっていった。

「自己破壊スイッチ」の裏に隠された真意

このような背景から生まれたのが、首相官邸地下の「秘密の部屋」に設置された「自己破壊スイッチ」だった。

このスイッチは、南條元首相が政権を退いた後も日本が彼の望む方向に進まなかった場合、
すべてをリセットするための「最後の手段」として設置されたものだった。

彼はこのスイッチを「国の保険」と呼んでいたが、実際には、
彼が不要だと考える「日本の残り香」を消し去るための「最終兵器」だった。

若手官僚が芸人のノリでそのスイッチを押した瞬間、
東京・銀座では突如、空から無数の白い花びらが降り注いだ。

その光景は一見美しいものだったが、触れるとピリピリとした感覚があり、花びらはすぐに消えてしまう。
まるで日本の過去の栄光が消え去るかのように。

国を売り払う陰謀

南條元首相の野望はもう一つあった。

日本を海外に「売り払う」ことだったのだ。

彼はグローバリゼーションを推進し、日本の資産を海外投資家に売却することで、
国を外資に依存させる計画を進めていた。
日本の企業は次々と外国資本に買収され、国内の製造業は海外に流出した。

彼は心の中でこうつぶやいた。

「日本なんて、どうせ小さな島国だ。高く売れるうちに、手放してしまうのが得策だ」と。

その結果、中流層は崩壊し、国民の大半は不安定な生活を余儀なくされた。

しかし、それこそが南條元首相の狙いだった。
彼は「国家」に「弱い人」はいらないと考えていたのだ。

自己破壊プログラムの発動とその結果

スイッチが押されると、日本全土で異常現象が続発した。

しかし、それは単なる奇妙な出来事に留まらなかった。
「自己破壊プログラム」が発動したことにより、国の運命そのものが大きく揺らぎ始めたのだ。

テレビ画面には一斉に「日本国 売却中」というメッセージが表示され、株式市場は瞬く間に崩壊。
すべての主要企業が国外資本に買い叩かれる光景がリアルタイムで放映された。
国のインフラから農地、さらには教育機関や病院までもが、海外の巨大投資ファンドに次々と買収されていく。

さらに恐ろしいのは、富裕層だけが海外の買い手によって「保護対象」として扱われ、
国外への脱出が許されたことだ。
彼らは高級住宅地やタワーマンションから、専用のヘリコプターやプライベートジェットで逃亡していった。

一方で、中流以下の国民たちは、売りに出された国土と共に「資産」として扱われ始めた。
国民IDに基づいて「価値」が評価され、労働力として売り飛ばされるか、
それとも「非効率的」と見なされて消されるのかが、AIによって無機質に判断されていく。

街からは人々が次々と消え、残された者たちは恐怖に震えた。

そう、この「自己破壊プログラム」の本質は、
「国を売り払う」だけでなく、「不要な者たちを処分する」ことにあったのだ。

国民の中にもこの事実を知る者がわずかにいたが、
彼らにも、もはや何もできないまま、ただその運命を受け入れるしかなかった。

こうして日本は売り飛ばされた国土と富裕層のみが生き残る、
不気味で無慈悲な「新しい世界」へと変貌していこうとしていた。

南條元首相の最後の笑み

そのころ、東京の片隅にある小さな喫茶店で、一人の老人が窓の外を静かに眺めていた。

カップから立ち上るコーヒーの香りが、薄暗い店内に漂っている。
彼の顔には、長い年月を重ねた者にしか出せない深い皺と、
どこか不気味な微笑みが浮かんでいた。

この老人こそ、かつて「民自党をぶっ壊す」と宣言し、
改革の名のもとに日本を揺さぶった南條元首相だった。

彼は自らの手で仕掛けた「自己破壊スイッチ」が、
ついにその役割を果たしたことを知り、満足げに微笑んでいた。

「これで、すべてが終わり、そして始まるのだな」

彼はそう独り言を呟き、コーヒーを一口飲み干した。
その香りは勝利の余韻に満ちていた。

南條元首相は、この日のためにすべてを計画していた。
彼が設置した「自己破壊スイッチ」は、日本を根底から変えるための最終兵器だったのだ。
彼は日本を再び「強い国」として蘇らせるためにはpcbr古い秩序を壊し、
新しい世界を築く必要があると信じていた。

「だが、これからが本当の戦いだ」

彼はそう言い、再び微笑んだ。
次の瞬間、彼の姿はまるで煙のように消え去った。
喫茶店のマスターが振り返った時、そこには空のカップと、わずかな小銭が残されているだけだった。

再び静寂に戻る日本

翌朝、何事もなかったかのように、日本は再び静けさを取り戻した。
道路は修復され、街中に漂っていた白い花びらは風と共に消え去った。
国会議事堂では、議員たちが通常通りの議論を交わし、
テレビのニュースは再び日常の出来事を伝え始めた。

だが、その静けさの裏には、不安と恐怖が静かに潜んでいた。

昨日の時点では「非効率」と判断されなかったことから消されずに残った国民たちのほとんどは、
自分たちは「選ばれた側」「権力者側」だと思っていた。

自らが「資産」として扱われ、いずれは消される運命にあることを知らされていない。
彼らが生活しているこの国が、もはや日本ではなく、「売り物」に過ぎないという現実に、まだ気付いていなかった。

その一方で、一部の者たちは、この異常事態に気付いていた。
きっかけが南條元首相だということにも。

かつては当たり前だったものが消え去り、街の景色が徐々に変わっていくことに不安を覚える者もいる。

「南條元首相が壊そうとしていたのは日本そのものだったんだ」

この囁きは、少数の者たちの間で静かに広がっていた。
だが、それを声高に訴える者はほとんどいなかった。
声をあげれば、その他大勢の国民たちから一斉に攻撃されるからだ。

こうして、南條元首相の計画は、今や静かに動き出している。

日本は外から見れば何も変わらないように見えるが、その内側では確実に変革が進んでいた。
その他大勢の国民もその変化に気付く時が来るのか、
それとも気づかぬまま、いつか「非効率」とされて消されるのか。

もう誰にも分からない。

だが一つだけ確かなことがある。

それは、日本がもうかつての日本ではないということだ。
そして、この新しい日本がどのような運命を迎えるのか、
それはこれからの世界が決めるのだろう。

そうして、日本は再び静寂の中に戻った。

しかし、その静寂は、決して平和なものではなく、不気味で恐ろしい未来への序章に過ぎなかった。

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