【マフィアシティ】豪傑の風格一覧表を更新しました

【ショート・ショート】愚か者の体内革命

ある日、体内で働く細胞たちが密かに集会を開いた。
場所は腸の片隅、脳から遠く離れたところ。

普段は黙々と職務をこなしている彼らだったが、この日は何かが違っていた。
酸素を運ぶ赤血球、異物を排除する免疫細胞、消化を助ける大腸菌、そ
してその他のさまざまな細胞たちが集まり、不満を吐露し始めたのだ。

どういうことだ?

さぁ、本題に入ろうではないか。

目次

細胞たちの反乱:知らぬが仏の愚かな人間

「議題は一つ。過労問題だ!」

リーダー格の赤血球が声を上げると集まった細胞たちはどよめき、
次々と同意の声、そして不満を口にし始めた。

「我々赤血球は、休みなく働いている!もう限界だ!」

1秒たりとも休むことなく酸素を運び続ける過酷な業務に、彼らは疲れ果てていた。
しかも、彼らの働きぶりに対して、感謝の言葉など一度も聞いたことがない。

「それだけじゃない。最近、この体が妙に重い。
酸素の供給が滞っていると言われるが、
我々だって疲れてるんだ。
少し休ませてくれなければ、体全体が危機に陥るかもしれないぞ!」

別の赤血球が付け加えると、さらに不満の声が広がった。

一方、免疫細胞たちも黙ってはいなかった。

「私たちもひどいものだ。
ウイルスや細菌と戦うのが我々の仕事だが、最近はその数が増えすぎている。
誰が敵で誰が味方かもわからなくなってきた。
間違って健康な細胞まで攻撃しそうになったことが何度もあるんだ!」

免疫細胞の一つが続けた。

「特に風邪の流行りが始まると、休む間もなく戦わされる。
死んでいった仲間も大勢だ。
どうして誰もこの状況を改善してくれないのか?

その言葉に、他の細胞たちも一斉にうなずいた。

さらに、大腸菌たちも不満を漏らし始めた。

「我々も黙っていられない。
湿っぽい腸の中で栄養も少なく、劣悪な環境で働かされているんだ。
特に、最近は食事が不規則で、しかも栄養が偏っていてつらい。
消化機能を止めてやろうか?」

細胞たちの怒りはピークに達し、反乱の火種が着火された。

しかし、その一方でこの体の主人である人間は、まったくその事態に気づいていなかった。
いや、気づいていないのではない。

彼は、自分の体のことに、健康に、全く興味を持っていなかったのだ!

愚かな人間の日常

この人間、名を田中といった。

彼は典型的な怠け者で、健康に無頓着だった。
朝はとにかくギリギリまで寝ている。

目が覚めるとスマホを眺め、二日酔いの頭を抱えながらタバコに火をつける。
朝食はカップ麺、昼食はファストフード、
そして夜はアルコールとちょっとしたおつまみで一日を締めくくる。
飲み会に行こうというものなら、帰りはこってりのラーメン屋で締める。

運動はもちろんゼロ。こんな生活を続けていれば、体が悲鳴を上げるのは当然のことだった。

田中は健康診断のたびに「要注意」「要再検査」と書かれた紙を受け取っていたが、
そういった注意はおろか、検査結果すらまともに読まずに捨てていた。
「俺はまだ若いから大丈夫だ」と根拠のない自信に溺れ、不摂生に溺れていたのだ。

「どうして最近体がだるいんだろう?まあ、夜更かしのせいか」

と、田中はスマホゲームに、お酒に、ごろ寝に没頭する。

彼は体内で細胞たちが苦悩を抱えて反乱を起こし始めているこなど、夢にも思わなかった。

脳の危機管理

一方、脳は体の司令塔として、日々の情報処理に追われていた。

しかし、このところ、どうにも思考が鈍くなっていると感じていた。

「どうも頭が重い。これでは集中できない」と脳は独りごちた。

脳は体全体の指揮を執っていたが、最近は上がってくる情報が時々錯綜しているようだった。
体内から送られてくる信号が不明瞭なことが増えたのだ。
おかげで、脳は正確な判断を下すのが難しくなっていた。

「まさか、どこかでトラブルが起きているのか?」と、脳は考えた。

脳は神経細胞たちに命じ、情報の流れを改善するための調査を開始した。
しかし、体内の隅々まで調査した結果は、どれも異常なしというものだった。

脳は納得がいかず、さらに詳しく調査を進めるように命じた。

そう、脳は気づいていなかった。

細胞たちの密かな反乱計画が進行中であることに。
彼らは意図的に情報を隠し、脳に反抗するための準備を整えていたのだ。

細胞たちのストライキ

とうとう細胞たちは、ついに行動に移した。

赤血球たちは酸素運搬を完全にストップし、脳へ酸素を送り込むのを拒否したのだ。
これにより、脳は酸欠状態に陥り、思考がさらに鈍くなっていった。

「何だこの感じは、まるで頭の中が霧で覆われたようだ」

脳は焦り始めた。

脳が焦りつつも異常に気付くのと同時に、免疫細胞たちは誤った情報を意図的に脳へ送り始めた。

「体内に大量の敵が侵入しました!全軍出動!」
このような緊急信号を送り続けたため、脳はパニックに陥り、絶望にも襲われた。

「これでは体を守るどころか、自らを攻撃してしまう!」

これだけでは終わらなかった。
大腸菌たちが腸内で暴動を起こしたのだ。
そしてついに消化機能が完全に止まった。

こうして、体内全体が混乱の渦に巻き込まれた。

脳はなんとか状況を収めようと必死に指揮を執ろうとしたが、
細胞たちはその指示を無視し、反抗を続けた。
まさに体内は無政府状態となり、機能不全に陥りつつあった。

人間の愚行と細胞の怒り

田中は相変わらず自分の体の異常に気づかず、日々を過ごしていた。

「どうしてこんなに頭がぼーっとするんだろう?酒の飲みすぎか?」と、彼は首をかしげた。

だが、それでも生活習慣を改めることなく、夜な夜なお酒を飲みながらスマホゲームに興じ、
カップ麺をすすりながらタバコを吹かしていた。

体は完全に疲労困憊していたが、田中はそれを「気のせい」と片付けていた。

「大丈夫、大丈夫。まだまだ若いし、少し寝れば元気になるさ」と、根拠のない自信があった。

その一方で、細胞たちの怒りはこれ以上ないほどにピークに達していた。

「もう我慢ならない!」赤血球のリーダーが叫んだ。
「このままでは、体全体が破綻してしまう。我々も破滅だ!」

免疫細胞たちも、さらなる暴動を計画していた。
「この愚かな人間が自らを破滅に追いやっている。
それならば、我々も徹底的にやってやろう!」と、彼らは自らを正当化し、暴走を続けた。

脳の反撃と最終調停

「このままでは体が壊れる!」

脳はついに緊急手段に出ることにした。
脳は体内のホルモン分泌システムを駆使し
、細胞たちの活動を強制的にコントロールすることにした。

まず、ストレスホルモンを大量に分泌させ、細胞たちに「危機感」を植え付けた。
これにより、細胞たちは自らの行動が体全体に深刻なダメージを与えていると、嫌でも感じせざるを得なくなった。

そして、脳は続けて、報酬系ホルモンであるドーパミンを放出させ、
「働くことが気持ち良い」という錯覚を起こさせるように仕向けた。
これにより、細胞たちは次第に自らの反乱が愚かなものだという認識に変わっていった。

「もしかして、我々はやりすぎたのでは?」と赤血球のリーダーがつぶやいた。

その声に、他の細胞たちも次第に同調していった。
「確かに、我々の反乱は体を傷つけてしまっている…」
「もう少し賢いやり方があったかもしれない…」
細胞たちは反省の念を抱き始めた。

脳はこの変化を察知し、細胞たちに働きかけた。

「確かに、皆の過労を無視してきた私にも責任がある。
これからはもっと良い労働環境を提供し、皆が健康に働けるようにしよう。
だから、今はこの体を一緒に守ってくれないか?」

と脳は優しく説得した。

こうして、細胞たちはストライキを解除し、再び職務に戻ることを決意した。
赤血球たちは酸素を運び始め、免疫細胞たちは敵味方を見極める作業に戻り、
大腸菌たちも腸内環境を整えるために働き始めた。

体内は再び平穏を取り戻し、脳はようやく安心して日々の業務に戻ることができた。

しかし、脳はこの事件を決して忘れることはなかった。
「再び同じ過ちを繰り返さないために、常に細胞たちの声に耳を傾けなければならない」と誓った。

愚かな人間の末路

しかし、この体の主人である田中は、結局何も変わらなかった。
さすがの脳も田中自身の思考回路を変えさせることはできなかった。

脳や細胞たちがどれだけ努力しても、田中自身が生活習慣を改めない限り、その努力は無駄に終わる。

「なんだか最近体が楽になったな」と田中は感じていたが、
それを自分の体が必死で頑張ってくれたからだとは全く思わなかった。

「やっぱり俺は丈夫だな」と根拠のない自信を持ち続け、相変わらずの不健康な生活を送っていた。
そして、またもや細胞たちは疲労を重ねていった。
疲弊しつつも頑張り続けたが、その動きは鈍くなっていった。

その結果、田中は数年後に深刻な健康問題を抱えることになった。
しかし、その時も彼は「どうしてこんなことに?」と首をかしげるばかりだった。

愚かな人間が、自らの体の声に耳を傾けなかった結果がもたらす、それは避けられない結末であった。

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